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夏の日差しにゆらめく五重塔を見上げながら、老人はゆっくりと石段に腰を下ろした。
「では」
差し出された火縄銃を手にとり、その鋼の部分を親指でこすった。油の匂いがただよった。
「うん」
秋篠春藤入道は、満足げにうなずいた。銃を渡した若者も、口元をほころばせた。
「いかがでござるか、叔父上」
「春田の若造の鍛えぶりの確かさは、ほれ、ここにしっかりとのう」
くるりと銃を左腕に回して銃口を覗き込んだ。春日友光は老人の下に膝を曲げて座り込んだ。
「叔父上」
「何ぞ」
「あの御堂の奥の仏さんを造った法師の鍛えぶりも確かであったとか」
「うむ、木地の彫りの巧みさをみればな」
二人は背後の扉の奥にぼんやりと浮かぶ維摩居士坐像の姿を振り返った。
「なんじゃろうなあ、あの目付きはなァ」
入道が笑ったが、春日友光は真剣な顔になった。
「おれも鍛えな、あかんのやろうか。あげな目付きをして踏ん張らな、あかんのやろうか」
「市三郎、いずれはな」
「御大将が清須美に匿われておろう限りは、というか」
「・・・・」
老人の沈黙に、友光は立ち上がって堂扉に駆け寄った。そしてパンと掌をあわせた。
「ご先祖さまァ」
その声に入道も目を閉じた。
「この春日友光に、なにとぞお示し下されい。大和は、秋津の国中は、あの御大将を仰いで岩のごとくに、ひとたびとも揺らぎはせぬものを、何ゆえに、何ゆえに・・」
「市三郎、もうよいではないか」
「よくはありませぬ」
若き武者はいきりたった。筒井城すら奪われて大和都祁内に避退したまま動けぬ若き大将の悲運に、大和武士の誰もが心の中で涙を流し続けているのだ。
「いまに弾正が輩も式部めもこの友光が駆逐して御覧に入れ申す。叔父上にも、旗揚げを」
「これ、はやるな」
手を振りつつも、秋篠春藤は快い気分になりつつあった。この若者にも、大和国を想う志は満ち満ちてある、なんとも良きありようではある。これならば京洛の兵が押し寄せようとも・・。
春日友光。春日大仏師定慶の末、この年数えで二十になんなんとす。
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